イメージ 2

Chapter26 『蠱毒』
 3人はほとんど同時に正気を取り戻した。後ろ手に縛られ背中合わせに座らされたまわりを4人の黒ずくめの男たちが囲んでいる。どうやら八束之岩屋の入口まで連れ出されたようだ。
周りはすっかり夜の闇に包まれていたが、狭い谷間に差し込む月光で薄ぼんやりと男たちの表情が見えた。

「長峰さんお久しぶりね」    
  抑揚のないマシンボイスのような女の声が男たちの後ろから聞こえてきた。
  真弓はいったい誰の声なのか最初は分からなかったが、2人の男の間から現れた黒いコートを着た女のシルエットを見てすぐに記憶が蘇った。
「あ、朝倉さん…?」
「そうよ朝倉美都。もう13年ぶりになるかしら、京都以来ね」
 千里と悟は黙って2人の会話を聞いていた。
「高来さん、あなたのこともよく存じています。守部文書からよくここまでたどりつきましたね。実は東京駅であなたの命を奪おうとしたのは私たちです。あなたは深く知りすぎた。もうご存じとは思いますが、私たち一族は古より土蜘蛛と呼ばれ蔑まれてきました。私たちの同士はこの世界では永遠に闇の中で生きながらえるしかなかったのです」
  雲間から漏れた月光が美都の乳白色の仮面を鈍く光らせた。

イメージ 1

「間もなく参宿四星が天を喰い天磐門が開かれる。もうすでに蒼龍王が償還された今、この世界を再び我々が統治するため再び劉朱鶏が蘇ります。あなたたちは先ほど八束之岩屋の奥ですでにご覧になりましたね」
「朝倉さん、なぜ今になってそんな愚かな殺戮を繰り返そうとするのよ。それはもう今となっては神話にしか記録されていない遠い昔の出来事でしょう。あなただって人間として生まれ、この世界で幸せに生きていく権利を持っている。現にあなたは日本政府のブレインとして、私たち以上にこの国のために尽くしていたんじゃないの」
「私たちもできればこのまま何事もなく生きたかった。しかしもうすぐ私たちの意思にかかわらず大きな禍がこの世界を覆い尽くす。蒼龍王と劉朱鶏そして黒霊亀と魁白帝、覚醒した四柱の戦神が果てしない闘争を繰り広げ、この世のものすべてが破壊され灰燼とかす。そしてそののち我々の手に新しく生まれ変わった無垢な世界が大いなる創造神より託されるのです」

「13年前の柳星張はあまりにも未成熟でした。私たち一族と融合し完全に覚醒する前に、比良坂綾奈の人間的な愚かな憎悪を吸収してしまったため、能力が覚醒しないままガメラと対峙してしまったのです。その結果あまりにもたわいなく倒されてしまった。社ノ沢でただひとりで生まれたのもあの子の不幸でした。でもあなたたちが先ほど岩屋の奥でご覧になった劉朱鶏は違います。真弓さんは覚えているでしょう。姫神島の洞窟で生まれたギャオスはすべて食い尽くされていた…もっとも強い1頭にしか生き残る権利はないの。そしてそのギャオスも劉朱鶏の糧でしかない。いま暗い地の底でゆいいつの神になるための儀式が静かに繰り返されているのです」
「蠱毒…!?」
千里は小さくうめくようにつぶやいた。

   蠱毒(こどく)とは、古代において用いられた呪術で蠱道(こどう)、蠱術(こじゅつ)、巫蠱(ふこ)などとも呼ばれ、古くは古代中国、殷・周時代の甲骨文字から蠱毒の痕跡を読み取れる。百種の蠱を集め、互いに喰らわせ、最後の一種に残ったものを留める。これを繰り返し最も強大な生命力を持った種を生み出すための呪法である。

「間もなく期は満ち、真の劉朱鶏が覚醒します。そして私と一体となり蒼龍王、黒霊亀、魁白帝を喰らい、ゆいいつの創造神としてこの世界に君臨するのです」
仮面に隠された美都の表情は弱い月の光の下では読み取れなかったが、無表情な声は心なしか小刻みに震えているように思えた。

「あなたたちには残念ですが彼らの糧になってもらいます。もうこれ以上邪魔をしてほしくないから…八束之岩屋の封印を解いたことであなたたちの役目は終りました」
  黒づくめの男たちが3人の腕をとり強引に立たせようとしたそのとき、深い谷間に乾いた銃声がこだました……

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 いつものことながら展開が遅くてなかなかお話が進まず恐縮です~
 そろそろクライマックスにならないといけないんですけど、なんせ思いつきで書いてるもので、自分にもどうなるのか判りませんwwwダハ
 でも次回にはなんか急展開が訪れる予感…いましばらくお付き合いくださいませ~