Chapter33 『東京カタストロフ』
「な、なんで我が国だけに次々と化け物が集まってくるんだ…」
首相官邸内の危機管理センターへ向かう公用車の中で防衛省の齋藤政務次官は憤懣やりかたない表情で独り言をつぶやいた。
官邸前の六本木通りは報道陣と警備の警官そして避難する群衆で騒然としている。
群衆の波をかき分けながら、公用車がエントランスに到着すると齋藤は小走りに駆け出して官邸の中へ消えていった。

   危機管理センターにはすでに山岸総理をはじめ関係各閣僚と政務・事務各次官のほとんどが集合していた。前方の大きなモニターには、未知の強大な白い魔獣が見慣れた池袋駅前のビル街を完膚無きまでに破壊し、市民を次々と蹂躙している惨劇の様子が克明に映し出されてる。それはとても冷静に直視できるような状況ではなかった。

管理センターへ市ヶ谷の防衛省中央作戦司令室より次々と情報がもたらされる。
「池袋東口付近に出現した巨大生物は、先月7日未明イラク北部モスル郊外、ニネヴェ遺跡を破壊し、国連軍一個中隊を壊滅させ消息を絶った古代アッシリア伝説の魔獣ヤイゲル・セラビム、英名ジャイガーと同一の個体と思われる」
「ジャイガーは蒼龍王と同じくワームホールを発現させて移動する能力を備えていると思われ、イラクから亜空間を通じて日本に現れたものと推測される。なおなぜ東京に出現したか意図は不明」
「豊島区、新宿区、文京区、港区に緊急避難命令発令。住民の避難を速やかに完了するよう警視庁、および守備隊は万全を期すること。今は目標を刺激することはできるだけ避け、避難が安全に完了するよう状況を監視せられたい」

「松戸の特戦研にリガートの出動を要請しろ」
棚橋防衛大臣のしゃがれた大声がセンター内に響く。
先のイリスとの戦闘で初運用されたリガートの戦闘効果は幕僚本部でも評価が高かった。
「リガートはイリス迎撃戦で3機が破壊され残り4機となっていますがすべて出動させますか」
「当たり前だ!いま使わずしていつ使うんだ。私は総理から守備隊の指揮権を一任されている」
棚橋防衛大臣は制服組幹部に対して声高に言い放った。
棚橋大臣はもと陸自の制服組出身で現内閣内でも生粋のタカ派として知られていた。
平時であれば国会で問題となりそうな過激な発言であったが、だれもそれを諫める者はなかった。穏健派の山岸総理はただ黙ってモニターを見つめている。
 「18:30(ヒトハチサンマル)リガード4機、松戸を発進しました」
 「守備隊および陸自第1師団は連携して避難状況を確認ののちリガート到着を待って総攻撃を開始せよ。東京湾方向へ誘導し、住民の生命財産に被害を及ぼさない地域を選択していっきに撃滅を図ることとする」

   中央即応群首都守備隊は13年前のガメラ渋谷襲撃の教訓から巨大生物の首都出現を想定し、首都防衛を任務とする内閣直属の部隊として各自衛隊混成で精鋭を招集し編制されていた。最新鋭の10式戦車を始め、陸海空とも最先端の装備を有している。リガートの運用ももちろんその中に含まれていた。
「東京湾へ誘導するには東京の中心部を縦断させなくてはならない。住民を安全に避難させながら、あの怪物を誘導するなんてとうてい無理じゃないのか。ましてや1000万東京都民を短時間で安全に避難させることなんてとうてい不可能だ」
制服組の幹部や閣僚の側近たちは小声でヒソヒソつぶやいていたが、首都守備隊の作戦を傍観するつもりかだれも防衛大臣に直接意見具申する者はなかった。
齋藤はそのつぶやきを後ろに聞いていたが、苦々しく思うだけでどうすることもできなかった。
   ジャイガーはまるで獲物を追い求めるように池袋駅前からゆっくりと目白方向へ南下を開始した。サーチライトに照らし出された全身は乳白色に妖しく輝いている。全身が無駄のない筋肉に包まれ、まるでネコ科の猛獣のように動きはしなやかでガメラや蒼龍王のようなは虫類的な行動パターンとは明らかに異なっているように思えた。
   猛獣と明らかに異なるのは背中に林立するヤマアラシのような無数の鬣と3対6枚の翼、鼻先にある2本の角、剣牙虎のごとき上顎の牙、眼光は鋭く狂気に満ち、全身には不鮮明な暗赤色のシマ模様が確認できる。背面の鬣の周囲に細かなウロコが密集しているのが見て取れる。尾はサソリのように節くれ立って黒く先端はカギ状の針が鋭く尖っている。
  体躯は蒼龍王を凌駕するほど長大で全長は150m体重は1000tはゆうに超えているだろう。ときおり6枚の翼をX型に拡げ突風を巻き起こす。その翼は月光と赤い超新星の光を反射し美しく七色に照り輝いている。イラクの国連軍よりもたらされた情報は的確にジャイガーの特徴を捉えていた。

   ジャイガーが首を振るたび、口の左右からぼたぼたと唾液がこぼれ落ちる。するとそれが落下した地面や構造物が異臭を放ち白煙を上げてたちまちのうちに溶解した。ジャイガーの体液は鼻部の角や鬣から発射される毒針と同じく強酸性の液体で組成されているらしい。これではリガートのD-5誘導弾で攻撃を加えると体液が周辺に飛び散り被害がますます拡大する恐れがある。
 現地からの報告に中央作戦司令室では攻撃計画の変更を余儀なくされ当惑を隠せなかった。

   作戦司令室が対応に苦慮している頃、イラク大使館から首相官邸に一本の電話が入った。モスル大学の考古学者アル・ザハド教授から重要なメッセージが届いているというのだ。ザハド教授はカルデア神話の世界的権威である。
「古代アッシリアの魔導書には、マンティコアの王、ヤイゲル・セラビムは遠き月の沈む果ての天空の城門より追放され、この砂の世界へ幽閉された。ヤイゲル・セラビムは我が身を封印した神を憎む。天空に赤き月が現れるとき白き魂の封印が解かれ古のものたちが復権し神への復讐のため再び現世に降臨する。現世と幽世は一体となり永劫の時を刻む。と記録されています。ニネヴェから奪い去られた白き魂を早くみつけて再びヤイゲルを封印しないとこの世に生ける者すべてが喰いつくされる」

「何のことかさっぱり判らんじゃないか。日本にはこの手の学者はおらんのか」
棚橋大臣は不機嫌そうに顔をしかめると、秘書官に手渡されたペットボトルの水をいっきに飲み干した。
 そのときもう一人の秘書官が山岸総理に伝えた。
「官邸に京南大学の高来准教授とミスカトニック大学の長峰研究員がお見えになっているとのことです。なにか重要な情報をお持ちとか…」
「早く入室の許可をお願いします」
斎藤政務次官が総理に小声で進言する。
  千里と真弓がエレベーターから慌ただしく走り出てきた。制止しようとするSPを齋藤が一喝した。
 千里は大臣たちの前へ進むと無言でショルダーバックから小さな箱を取り出す。蓋を開けるとその中では楕円形の白い珠が規則正しく明滅していた。
「これで、ジャイガーを誘導できるかもしれません」

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今回はジャイガーが主役なので、挿絵がわりの画像がありませぬ~ダハハ
あえてジャイガーをUPするならこんな感じでしょうか

イメージ 1

これは、ご存じモンハンに登場する氷牙竜ベリオロスです~
表情がネコ科の猛獣みたいでしょ
サーベルタイガーのような大きな牙が特徴デッス
でも、ジャイガーのように鼻先に1対のツノがないし、背中にトゲトゲもありません
それにベリオロスは翼竜タイプで前肢が翼になっています
ジャイガーはドラゴンタイプで背中に3対6枚の翼があります
イメージ的には熾天使セラフィムやバビロニアの魔神パズズの翼の感じです
フォルムは「緯度0大作戦」のグリホンをもっとかっこよくした感じ…
自分にデッサン力があったら画に描いたり立体物作ってみたいんですけど~
残念ながらその能力はございませぬ~ダハハ
よって恐れ入りますが文章で想像してみてくださいね

さてさてジャイガーに蹂躙された東京はどうなってしまうんでしょう~
風雲急を告げる次回を乞うご期待