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Chapter41『伊-374潜の秘密』
   貴幸が諏訪で守矢老人と面会していた同時刻、米森と淺黄は海上保安庁の資料書庫に保管された古い海事記録を精査していた。米森は、海底神殿で発見した潜水艦の存在が浮遊岩礁の謎を解明する手がかりになるのではとずっと考えていた。

   潜水艦の識別番号は伊-374、敗戦の色濃い1945年2月南太平洋ニュージーランド・チャタム諸島東方、南太平洋海盆近海…南緯47°9′西経126°43′付近である作戦に従事中消息を絶った。艦長は磯谷忠雄中佐、しかし作戦の目的、消失の原因についてはいっさい記載はなかった。

 米森が沈黙していると、淺黄が偶然「厳秘」と書かれた古い収納箱の片隅に戦時中、海軍特警の調査資料と思われる、ある人物の行動記録を見つけた。調査対照は朝倉辰興…
「あさくら…」
淺黄の脳裏に朝倉美都の白い仮面が浮かんだ。

 朝倉辰興は旧帝大の教授で、戦前大和民族のアーリア人起源説を提唱し三国同盟を推奨した軍令部のブレインのひとり、戦後A級戦犯として収監されたが、極東軍事裁判中忽然と記録から消えた異端の人類学者だった。そのノートには伊-374の作戦行動の目的と思われる記述が残されていた。
伊-374は1945年1月、軍令部の密命を受け佐世保から南太平洋に向けて出航している。表向きは前線への物資輸送となっていたが、真の目的はまったく違うものだった。
  
   1936年、朝倉は文民の特命次官として独逸大使館に赴任していたおり、ナチス親衛隊指導者ハインリヒ・ヒムラーの側近で独逸古代史研究機関(アーネンエルベ)の長官カール・フォン・ヴァイストールと親交をもった。朝倉の大和民族アーリア人起源説もこの時期に培われ確信するに至った。
 ヨーロッパでも太平洋でも枢軸国にとって著しく戦局の悪化した1944年初冬、朝倉はヴァイストールからにわかには信じられないような奇妙な書簡を受け取る。

   ヴァイストールは自分が霊的な力を持っていて、自分の先祖の記憶にアクセスできると主張していた。ヴァイストールとヒムラーの祖先はアース神族とヴァン神族が結合した氷の王であり、神の軍団を率いて世界を統制する運命にある。そのためには禁断の神殿の鍵を開き、先祖の魂を解き放つ必要があるという。しかし鍵を開けるには神の剣の力が欠かせない。彼はヒムラーの命を受けアーネンエルベを使って世界各地から禁断の神殿の情報を収集した。その結果日本の守部文書に記述のある天磐船伝説と魔導書ネクロノミカンの海底神殿ルルイエの記述の共通性に着目した。

 その結果南太平洋海底に眠る太古の遺跡の存在を発見するに至る。しかし時すでに遅く、独逸第三帝国の敗色は濃厚となっていた。ヒムラーはヴァイストールを通じて旧交のある朝倉に海底神殿の探索を依頼した。朝倉はナチス独逸と利害関係の一致する軍令部を動かし伊-374潜を南太平洋に派遣し自らも作戦顧問として乗艦していた。

 調査書の記述はここで終わっている。その後、伊-374の消息についていっさいの公式な記録は残っていない。ただ伊-374の船体が無傷で海底神殿に横たわっていた事実を米森は自分の目ではっきりと確認している。海軍将校と思われる遺体も目撃した。
極東軍事裁判の被告に朝倉の名が記されている。朝倉は太平洋の海底からどうやって本土へ帰還したのか。そして裁判中、収容されていた巣鴨プリズンからどこへ姿を消したのか。
はたして、朝倉は禁断の扉を開けてしまったのだろうか。神の剣とはいったい…
  謎は深まるばかりだった。

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いっきにクライマックスに突入かと思ったらまたまた寄り道しちゃいました~
物語を大団円に持って行くにはこの辺をちょっち詰めないといけないと思いまして…
この潜水艦のくだり(第12章)はご存じクトゥルフ神話の「神殿」をモチーフにしてるもんで、最初はもろUボートにしてたんですが、ちょっと太平洋のUボートは無理かと思いなおして伊号潜水艦に変えました。また第12章の方もご確認くださいませ~
なんせ書いてるうちに次々とひらめいて書き込んじゃうもので、読み直すと最初とぜんぜん整合しない部分があるかもしれません。まあその辺はなんでもありの2次創作…もしお気づきの点がありましたらご指摘くださいませ~

さてさて今回の元ネタはナチス親衛隊指導者ヒムラーの側近で「ヒムラーのラスプーチン」と呼ばれたオカルト主義者カール・マリア・ヴィリグートデッス
そして謎の国粋主義者朝倉辰興の登場、朝倉美都となんか関係ありそう…
このエピソードが物語完結のヒントになります
ということでまだまだお話ひっぱりまっせ~デヘヘ