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Chapter42『地下室』
 米森はフゥっと深いため息をついた。
 結局のところ朝倉辰興は、南太平洋の海底でなにを発見したのか。辰興がその後、日本に帰還できたことは記録からも確かだ。しかし米森は伊-374潜を南鳥島ではっきりと目撃している。消息をたったのは遙か遠くの南太平洋のど真ん中…いったいどうすれば日本に帰還することができるというのか。そして70年を経て海底神殿は日本近海で浮上し、再び忽然と消息を絶った。

  翌日の夕刻、米森の運転する白いSUVは横浜市郊外いぶき野にある閑静な住宅街の市道を低速で走行していた。助手席で淺黄が熱心にナビをチェックしている。やがて周辺の環境には不釣り合いに見える無骨な煉瓦塀に囲まれた古いの洋館の脇にゆっくりと停車した。高い塀越しにかろうじて、風見鶏のついた尖塔の先端が見える。
「間違いなくここなんですか」
「うん、間違いない。防衛省に残された朝倉辰興の資料ではたしかここのはずなんだが…」  
   一面蔦に覆われた煉瓦造りの柱に埋め込まれた朽ちかけた石板にはかろうじて朝倉と判読できる楷書体の二文字が刻まれている。

「齋藤さんに今朝いろいろ調べてもらったんだけど、朝倉美都…つまり井氷鹿と朝倉辰興との間には戸籍上はなんの関係もないそうだ。というか朝倉美都にはそもそも戸籍自体存在しない。そんな美都が政府のブレインとして国家の中枢のポストについていたということは常識では考えられないんだが…」

   2人は車を降りると屋敷を取り囲む煉瓦塀に沿って中の様子をうかがうように注意深く一周した。冬の夜、通行する人影もなく洋館はひっそりと静まりかえっている。長年人が住んでいたような形跡も感じられない。まるでそこだけ周りの時間から取り残されているような感覚にとらわれた。
「ちょっ…ちょっと!」
 米森は、あたりに人の気配がないのを確認すると、淺黄が静止する間もなく蔦を足がかりに高い塀に素速く登ると、あっという間に邸内に姿を消した。やがて淺黄のすぐ後ろにある小さな通用口の扉が開くと、中から米森の逞しい腕が動揺している淺黄をすっと屋敷の中に引っ張り込んだ。
「鍵が錆びて朽ちてたんで案外簡単だったよ」   
「ん、もう……」
 大胆な米森の行動に圧倒されて淺黄には返す言葉がなかった。

   屋敷の中は、放置されて伸び放題の落葉樹と一面を覆う背の高い雑草でまるで熱帯雨林のジャングルのような様相を呈していて、ほとんど見通しがきかない。満月だったが、月の光も樹木の影に遮られ地表まで届かない。足下はまるで湿地帯のように暗くぬかるんでいた。2人は注意深く屋敷に近づいていく。塀から屋敷まではかなりな距離があるように感じた。やがて月光を背にに独逸風の古びた洋館が姿を現した。

  米森は注意深くあたりの様子をうかがう。屋敷にはまったく人の気配はなかった。
「ここは戦前、朝倉辰興の邸宅で横浜の空襲を免れ、朝倉の失踪後は執事兼管理人の老人が長く住み込んでいたそうだが、その人ももう30年近く前に亡くなってその後は荒れ放題で放置されているそうだ。近所では例に漏れずお化け洋館としてちょっとした名所になってるらしい」
「この屋敷に立ち入ると祟られるとかでだれも近づかないんだとか…事実昭和30年頃、屋敷に無断で侵入した数名の若者が行方不明になっているそうだ」
淺黄はぞくっと背中に悪寒を覚えた。
「米森さんこんな大胆な事して、ここにいったいなにがあると思っているの」
「それは分からない…でもいまのところ朝倉辰興と井氷鹿をつなぐ手がかりはここしかないから…」

 米森と淺黄は慎重に洋館の東面にあるベランダに上った。ベランダのガラス窓には一面に蔦が絡まり、時代錯誤のような大きな南京錠で閉ざされている。
   米森は背負ったデイバックからトルクレンチを取り出し、南京錠の掛け金に差し込み力一杯ひねると錆びて朽ちているせいか、思いの外簡単にポキッと折れた。
「まるでプロのお仕事みたいね」
浅黄が皮肉っぽくつぶやくと、米森はペロっと舌をだしてウインクした。
   きしんだ音を立てて窓を開くと米森はすばやく室内に入る。浅黄もとまどいながらも米森のあとに続いた。 

   室内は暗闇の中、湿ったカビの臭いとおびただしい数の蜘蛛の巣に覆われていた。室内の空気はどんよりと重く沈殿している。
  ふたりは部屋をぬけ、ペンライトで辺りを確認しながら、屋敷の奥に向かって注意深く廊下を進んでいった。古びた調度品や壊れた装飾品の断片が無造作に足下に散らばり、主のいない空しい時間の長さを物語っている。

 L字に曲がった廊下の突き当たりに地下室に通じていると思われる階段のドアを見つけた。少し開けペンライトで照らしてみたが、内部は一面深い闇に包まれ、階下の状況を視認することがまったくできない。二人は少しためらったが気を取り直し、弱々しい光で足下を照らしながらゆっくりと下っていった。
 階段を降りると、目の前に今度は錆びた重々しい鉄の扉が現れた。米森は扉の取っ手に手を掛けると渾身の力で手前にひいた。扉は甲高い悲鳴
を上げかすかに開く。隙間から部屋の中を確認すると、浅黄に目配せをして狭い隙間から室内に脚を踏み入れた。浅黄も後に続く。

 中はがらんどうの何も無い四角い空間だった。物音はいっさいしない。空気がまるでどろどろとした液体のように体にまとわりつく。
 ただならぬ気配を感じ、無意識に天井を見上げた二人はほとんど同時に息をのんだ!
 そこには直径2mほどのまるで漆黒の闇のかたまりのような黒い球体が空中に静止していた。球体の中では無数の光束がかすかに明滅しながらゆらゆらと流動している。
「こ!これは!」
 次の瞬間、二人の姿はまるで黒い球体に吸い込まれるように忽然とその場から消滅した。

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時系列が進んだり戻ったりで恐縮です~
その辺、編集するのが本当なんでしょうけど
まあ思いつくまま行き当たりばったりで進めて参りますゥ

いよいよ人間ドラマの方のラスボスが登場しそうな予感
この人物がすべての謎を解くキーパーソンデッス
もう少しこっちの方向でお話進めて参りますのでどうぞヨロピク