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Chapter45『作戦開始!』
「あなたのご主人にはきっちり借りを返してもらいますよ」
 大きく振動するオスプレイの操縦席からパイロットが千里に大声で話しかけた。
「えっあなたは…?」
「私ですよ。ご主人の後輩の櫛田です。リガートは私の大切な女房だったんですが、今朝先輩に寝取られてしまいましてね。だから仕方なくこっちで来たんです」
 表情は判らなかったが、千里の知る櫛田の天性的な楽観主義は時がたっても変わっていないようすだった。

 2機のオスプレイは徐々に高度を下げていく。ローターに攪拌された黒煙の隙間からガメラの巨体が視認できた。
「エサを下ろしますよ。食いついてくれるといいんですが…」
   2号機はティルトローターの仰角を起こしながらガメラの上空を大きく右回りに旋回する。ガメラの前方に回り込むと側面ウインチのワイヤーの先端にセットされた黒霊珠の格納容器をスルスルと下降させた。ガメラの視線が明らかに2号機を追っているのがモニターで確認できる。
 ガメラの正面でホバリングするとガメラはジャイガーから視線を離し、ゆっくりと2号機に近づいてきた。
 2号機はガメラとの距離に注意しながら、低速で東京湾の方向へ誘導を開始する。
「先輩、でっかいネコはおまかせします。奥さんのことは大丈夫、私が責任を持ちますから必ず帰ってきて下さいよ。どうぞご武運を」
「ラジャー。おまえには大きな借りができたな。千里をたのんだぞ」
「あんた、とんでもないことして!帰ったら櫛田さんにしっかりとあやまるのよ!」
 櫛田の後席で千里が大声で叫ぶ。

「10:00(ヒトマルマルマル)ただ今より作戦行動を開始する」
 貴幸はリガートのコントロールパドルを握る手に力を込めると”悪魔の笛”の音響スイッチをONにした。青海地区いったいに重苦しい重低音の笛の音がこだまする。破壊されたビルの窓ガラスがびりびりと振動した。
   ジャイガーの耳がぴくりと動く、低いうなり声を上げ、苦悶の表情を浮かべながらその場に身を投げ出すように突っ伏した。全身の体毛が逆立ち、びりびりと小さく痙攣しているのが分かる。視線は定まらず、眼球も細かく振動している。口からはだらだらと強酸性の唾液がこぼれ、足下のギャオスの遺骸を溶解した白煙と異臭があたりに充満する。悪魔の笛の音は明らかにジャイガーの全身を麻痺させていた。
「よし効いてるぞ!」
「笛音の効果大、目標運動能力著しく低下のもよう、これよりD-5による攻撃を試みる」
   リガートは極端に動きが鈍重になったジャイガーの正面へ回り込む。
 苦しそうな息づかいで横にだらしなく舌を垂らしたジャイガーの口腔めがけて、貴幸は超塩基誘導弾のトリガーを弾いた。誘導弾は一直線に2本大きな剣牙の隙間をすり抜け口腔内に消えていった。
 ジャイガーの口から鈍い爆発音がこぼれた瞬間、大きく開かれた下顎から多量の体液が四方に飛び散る。霧状に拡散した体液が至近距離にいたリガートにも容赦なく降りかかり装甲板から白煙が上がった。
 ジャイガーは反射作用か天に向かって大きく咆吼すると、一瞬立ち上がったがまるで魂が全身から抜け落ちるようにその場に再び崩れ落ちた。徐々に体色が透き通るように変化していくのが視認できる。注入された超塩基物質の化学作用で急激にネクローシス(壊死)が誘発されたのだ。本能的に立ち上がろうとしているようだが「悪魔の笛」の作用で全身の自由がきかず、ギャオスの遺骸を引っかき回してもがき苦しんでいる。それはさながら地獄絵を見ているような光景だった。

「こちら00-07、目標戦闘力喪失のもよう、残弾なし燃料残少これより音響装置を留置し、市ヶ谷へ帰投する。第2次攻撃の準備をされたし」
   息も絶え絶えに全身を痙攣させながら横たわったジャイガーの口から多量のゲル状の体液が絶え間なく吐き出されている。リガートの機体を旋回させたその時、貴幸はモニター越しに、流れ出た体液の中に白く光る小さな物体を発見した。
「あれは!…」
上空にホバリングしながらモニターでもう一度注意深く確認する。
「00-07よりCIC、ジャイガーから白霊珠と思われる物体が放出されるのを確認、これより回収を試みる」
「先輩、地上部隊に任せて無茶はしないでください」
   櫛田から無線が入る。
「あなた、もういいから基地に帰って!」
 千里も同時にマイクに向かって大声で叫んだ。しかし作戦行動中のオスプレイにはどうすることもできない。貴幸からの応答はなかった。

   ガメラは、まるで黒霊珠に魅入られたようにオスプレイについて海上をゆっくりと移動し、しだいに中央埋立地の海岸線から離れていった。ガメラの体温に熱せられて海面からおびただしい量の水蒸気が立ち上っている。
 ガメラにオスプレイを攻撃する意思はまったく感じられない。まるで闘争心を失った夢遊病者のように、黒霊珠の妖しい光に誘導され東京湾の中央に向かって南下している。それはジャイガーの白霊珠に対する反応とまったく同じだった。
   サーモセンサーで探査すると、海水に冷却され幾分体内温度が下降してきているのが確認できる。どうやら自爆の危険性は薄れたように思われた。
「そのまま東京湾外に誘導し、伊豆大島東方に展開している米機動部隊に攻撃を委ねただちに帰投せよ」
「棚橋大臣は米軍にホイットモアの敵討ちをさせる気ですね。ペンタゴンも本気になってるようだ」
「ガメラは人類唯一の味方なのに…」
 真弓がぽつりとつぶやく。悟も無言でうなづいた。
「米軍は最新の原子力空母を沈められてますから、ガメラを抹殺しないと大統領の気がおさまらんのでしょう」
 アメリカはホイットモアが撃沈された直後、ガメラ殲滅のためサンフランシスコを母港とする米太平洋艦隊の原子力空母ジェイムズ・マーシャルとトム・ベックの2艦を中心とする空母打撃群を日本近海に展開させていた。また中国も自国防衛という口実で尖閣諸島周辺に新鋭空母梁山泊を旗艦とする機動部隊を派遣していた。
 櫛田の話に、千里は小さくため息をついた。ただ、いまはガメラの行く末より貴幸のことが気がかりだった。

 その時、先導するオスプレイ1号機が突然、青白い閃光と轟音を上げて爆発四散した。櫛田は操縦桿を力一杯握りしめると、爆発に巻き込まれないよう大きく右へ回避する。後席にいた千里たちは大きな横Gに耐えながら、眼下の浦賀水道に立ち上がる巨大な水柱とともにあの邪悪な禍津神がガメラの行く手を阻むようにゆっくりと浮上するのを目撃した。やつはやはり生きていたのだ。

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ついに真打ち登場デッス
対ガメラ第2ラウンド…
でもガメラはかなり弱ってるんですよねェ~
臨海副都心ではジャイガー対イリスの闘いの予感…
いよいよ風雲急を告げる怒濤の展開に乞うご期待