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Chapter47 『夕闇のせまる縁にて』
  遠くで古いアナログレコードの奏でるパッヘルベルの四重奏が流れている。
  かすかな陽の光の中に横たわっているのが、肌の感触から理解できた。
  米森はゆっくりと目を開いた。どうやら洋室のソファーで気を失っていたらしい。自分がどういう状況だったのかすぐには理解できない。
  半円形に張り出したテラスの窓ガラスを通して弱々しいオレンジ色の夕日の光が差し込んでいる。米森はゆっくりと身体を起こした。この部屋はどこかで見た記憶があるのだが思い出せない。頭がズキズキと痛む。

「気がついたかね。米森君」
 ふいに背後から声をかけられ、米森は反射的にソファーから立ち上がり声のする方向に身体を向け身構えた。そこには長身の初老の男が、木製のチェアにすわってじっと米森を見つめている。
  物静かなたたずまいだったが、眼光は射るように鋭い。陽の届かぬ部屋の奥でよく見えないが、どこか日本人離れした異国の雰囲気を持った人物だった。

  その男はゆっくりと立ち上がり、脇にあったグラスに水を注ぐと米森に差し出した。
「よくここが分かったね。まあいつかはたどりつくと予想はしていたんだが…」
「淺黄は…淺黄さんをどこへやった」
 米森は声を荒げて問い詰める。
「大丈夫だ。隣の部屋で休んでる。もうすぐ気がつくと思うよ」
 男は、もう一度手に持ったグラスを米森に差し出した。
  米森に受け取る意思がないことをさとると、静かにデスクの上に置いた。
「なにから聞きたいのかね。質問はたくさんありそうだ」
 男は年代物と思われるワインを別のグラスに注ぐ。

「私は朝倉辰興、もうよくご存じでしょう。そしてもう一つの名はカール・フォン・ヴァイストール…これもだいたい察しが付いていたのでは?」
 男は軽く笑みをうかべ、米森にさほど注意をはらうこともなく、夕日の差し込むテラスの方向へゆっくりと進みながら、手に持ったワイングラスを唇にはこんだ。

「そして大昔、君たちの始祖が私に付けた名前は、天叢雲…」
「えっ!それじゃ井氷鹿の…」 
米森は軽いめまいを覚えソファに座り込んだ。
「そう、そして出石の父親…でも君たちの古い記録に書かれているような妖怪のような存在じゃないよ。君たちを創造した者…言うなれば神といったところかな」
 男は再びワイングラスを口にすると、じっと夕日を眺めながら静かに語った。
 顔面は夕日に照らされ、炎に包まれたようなオレンジ色に染まっている。
 
  そのとき、部屋の隅にあるドアが開き、淺黄が黒いスーツの男に支えられて入ってきた。「淺黄さん大丈夫か!」
  米森は男の手を振り払うと淺黄をソファに座らせる。
 「ちょっとフラフラするけど大丈夫…それよりここはどこ…」
  米森と淺黄は改めてあたりの様子をうかがう。

 広い洋室で半円形に張り出したテラス、部屋の中にはクラシックな調度品が配置され、壁いっぱいの書棚にはおびただしい数の洋書が規則正しく並んでいる。
  2人の座った中央の大きなソファも年代を感じさせるもので、部屋の隅に置かれた木製デスクの上には、筆記用具と書類がきちんと整理されていた。
  2人は、デジャヴ感というか、うまく表現できない奇妙な感覚を覚えた。たしかにここには来たことがある。いやついさっきこの部屋に立っていた気がする。

「そう、お察しのとおりここはさっき君たちが入ってきた部屋だよ。時間は少し違うがね。まあそんなことはたいした問題じゃない。ようこそ私の世界へ。歓迎するよ」
  男は、冷たいほほえみを浮かべてゆっくりと振り返った。
「私は時間と空間を自由に行き来する術を持っている。おっと君たちももう体験済みだね。もちろんこの姿も本当の私の姿じゃない。朝倉辰興という洋服を着ているようなものだ。ヴァイストールにしても同じ…本当の私はこことはまったく違う世界にいる。でも君たちの行動はすべて把握していた。高来准教授たちの行動もね」

  辰興はワイングラスをデスクの上に置いた。
「君たちの持ってる時間など実にはかないものだ。我々は人類の誕生するずっと以前からこの世界に住んでいたんだよ。君たち人類が反乱を起こすまでは実に平和な世界だったんだ」
  まるで独り言のように辰興は淡々と無表情で語っている。部屋の中のすべてが寒々とした夕闇に飲み込まれつつあった。

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怪獣たちの闘いとは少しの間離れて
米森と浅黄のところへお話を戻します
ほんと思いつきで書いてるものでお話の順番が支離滅裂ですねェ~
しばし静のエピソードでお口直し…デヘヘ