イメージ 1

Chapter50 『蘇りし白き獣神』
 悪魔の笛の音と超塩基物質の攻撃にさらされ、瀕死の状態で横たわるジャイガー…。
 貴幸はその約200m前方にリガードを着地させた。コクピットを開き、タラップを踏みしめジャイガーが吐しゃした粘液溜まりへ注意深く脚を下ろす。本来なら強酸性の体液でたちどころに溶解されてしまうところだが、超塩基に中和されドロドロとしたゲル状の薄黄色い液体に変質している。

 貴幸は膝下まで浸かり、纏わりつく粘液をかき分けながらジャイガーの方向へゆっくりと歩いていった。あたりには鼻を突く不快な臭気が充満している。リガートのスピーカーから放たれている大音量の悪魔の笛の音が、追い打ちをかけるようにじわじわと精神を圧迫する。ジャイガーの四肢が小刻みに痙攣し、その振動が体液を介して膝元から伝わってくるのが判る。

 全身の感覚を研ぎ澄まし慎重に状況を見極めながら、瀕死の野獣に近づいていく。やがてジャイガーの頭部が小山のように思えるほどの至近距離にたどり着いた。
「たしかこのあたりだったが…あれは決して錯覚なんかじゃない」
   貴幸は、自分に言い聞かせながらあたりを注意深く探る。反面、なぜか動物の本能にも似た不確かな自信があった。

   午前8:20…時間的にはすっかり夜が明けていたが、火災による黒煙と強風で舞い上がる砂塵で、太陽光は遮断されまるで夕暮れのようにあたりは薄暗い。
   一心不乱に、周りを探る貴幸の眼にコンクリートの瓦礫の隙間から、白い小さな物体の鈍い光が飛び込んできた。
「あった!あれだ」
  貴幸は、悪臭を放つ体液の沼をかき分け、隙間に近づくと溜まった粘い液体を気にすることもなく、手を浸し白い珠を拾い上げた。ニネヴェの遺跡のとき以来、井氷鹿の謀略で一度はジャイガーに略奪された白霊珠を再び奪還することができた。
「こちら00-07、白霊珠を回収した。ただちに帰投する」 
  独り言のようにトランシーバーに告げ、振り返りジャイガーの頭部を一瞥すると、リガートの方向に足早にとって返した。 

   リガートまであと100m…そのとき背後の黒煙の中から突然対戦車ロケット弾が放たれ、貴幸の直上をリガートに向かって一直線に飛び去る。
  貴幸は悪魔の笛の音色に遮られ、背後にヘリが近寄っていることを不覚にも気づかなかった。
「井氷鹿…!」
  貴幸の悲痛な叫びをかき消すように、ロケット弾はリガートのスピーカー付近に命中、リガートは衝撃で横倒しとなり、悪魔の笛の重低音がプッツリと途絶えた。

  貴幸は爆風で後方へ吹き飛ばされ、コンクリート塊で右肩を強打しその場に倒れ込んだ。崩壊した高速道路の狭い平地に着陸したヘリから、黒いコートを着た女と同じく黒いスーツの屈強な男がゆっくりと近づいてきた。目深にかぶった帽子の影にうっすらと笑みを浮かべた女の表情が、倒れた貴幸の目におぼろげに映った。

「それはもともと私があなたに命令して手に入れようとしたもの。だから返してもらうわね。あなたの役目は終わったのよ。悪く思わないで」
 黒いスーツの男が貴幸から白霊珠を奪おうとする。貴幸は横たわったまま白霊珠を体液の中へ放り投げた。男は無言で貴幸の頭に拳銃を突きつける。
  貴幸は、覚悟を決めて充血した眼で男をにらみつけた。

   そのとき、轟音と共に瓦礫の一部が大きく崩落する。振り返ると大地を切り裂くような咆吼とともに砂塵の中から巨獣の頭がゆっくりと立ち上がるのが見えた。
 拘束していた悪魔の笛から開放され、旺盛な復元力でネクローシスを起こした細胞も急激に再生している。恐るべきジャイガーの生命力に貴幸は震撼した。

 ジャイガーは目の前にある黒いヘリを左前脚ではじき飛ばす。ヘリは貴幸のすぐ上空をかすめ横たわったリガートに激突し爆発炎上した。貴幸は、瓦礫の隙間に身を伏せたが、発生した熱風に視界を奪われ、井氷鹿と黒いスーツの男の姿を見失った。振り返るとジャイガーの雪山のような白い巨体が目前に覆いかぶさってくる。
「千里!梓!」
万事休す!貴幸は白霊珠を抱え込むと心の中で妻と娘の名を叫んだ。

 そのとき、鈍く肉を切り裂くような生々しい音がしたかと思うと、鋭い先端を持った複数の赤い触手が、ジャイガーの太い首に巻きつき、あるいは翼の付け根部分を深くえぐった。あたりにまたしても黄色い体液が大量に飛び散る。ジャイガーは苦悶の表情を浮かべ大きく咆哮した。
  まったく視界のきかない黒煙と砂塵が渦巻くジャイガーの背後から、異形の朱い怪鳥のシルエットがまるでわき上がる積乱雲のように不気味に浮かび上がった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

恐るべき生命力で復活したジャイガー
イリスははたして人類の敵か味方か
大海原に消えたシアンキングとガメラの運命は
はたして四大怪獣の死闘の結末やいかに
風雲急を告げる怒濤の展開に乞うご期待