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Chapter51 『脱 出!』
  貴幸は、白霊珠をかかえ、生存本能のみで行動する野獣のように、ただがむしゃらに逃走を試みる。しかし体長がゆうに60mを超える巨獣の足下から無事逃れるのはほとんど奇蹟に近いことかもしれないという恐怖感が全身を硬直させ思うように身体が動かない。ジャイガーは明らかに白霊珠を奪還すべく、貴幸を追おうとするが、イリスの触手に捉えられ意思とは逆にジリジリと後方へ引き離されていく。

 怒りが頂点に達したジャイガーは肩口に突き刺さったテンタクランサーに食らいつくと鋭い牙に渾身の力を込めて粉々にかみ砕いた。粉砕された触手の先端から噴水のように血液が飛び散る。白い魔獣は一瞬ひるんだ邪神に体当たり、仰向けに倒れたところに覆い被さると左腕のツメでのど元を深く抉った。鮮血があたりを赤く染める。イリスは体制を立て直すと右腕のスピアで覆い被さるジャイガー腹部を貫く。ジャイガーは苦悶の叫び声を上げるとイリスともども岸壁から大井側の海中に崩れ落ちた。

 貴幸は、背後で2頭の巨獣の壮絶な闘争を肌で感じながら、粘液が足下に絡みつく瓦礫の狭間をただひたすら生き延びるため走り続けた。
 しばらく進むと前方に無残な鉄塊と化したリガートが横たわっていた。瓦礫を伝ってハッチのねじ曲がったコクピットへ這い上がり、すぐさま無線機のスイッチを入れる。モニターにかすかなオレンジ色のLEDが点灯した。
「こちら00-07…白霊珠を確保、ただ本機は損傷おびただしく再起動不可能。これより自力で脱出を試みる。千里聞こえるか!まだなんとか生きてるぞ!」
 そのときレシーバーに一番聞きたかった声が飛び込んできた。
「あなた大丈夫!まだ死んだらダメだから!櫛田君にあやまらなくちゃいけないでしょ。梓にもいままでのこと許してもらわないと、これから拾いに行くから待ってて!」
「先輩!いっぱつ借りを返すまで死なないでくださいよ!」

 貴幸にとってその声はなによりのカンフル剤になった。白霊珠を入れた装備袋を肩にかけ、大きく息を整えると歪んだハッチから再び戦場へと脚を踏み下ろした。
「とにかく、ここから一刻も早く離れなければ…」
 ジャイガーの粘液の中へ再び脚を下ろしたとき、リガートの脱落したミサイルポッドと倒壊した倉庫の隙間に倒れて動かない人影が眼に入った。注意深く近づくとそこには見慣れた黒ずくめの女性が横たわっていた。
「井氷鹿、君の守護獣は君を守ってくれなかったようだな」
 井氷鹿は薄く眼を開け、貴幸と視線が合ったがそのまま、無言で再び眼を閉じた。
  貴幸は、井氷鹿の右腕を肩に回すと引きずるように歩き始めた。

  やがて、ジャイガーの粘液溜まりに代わってギャオスの腐臭の立ちこめる南東側の岸壁の突端にたどり着いた。貴幸はその強靱な体力をほとんど消耗し、肩で息をしながら荒れ果てた道路に膝をつき、2頭の闘争の続く大井ふ頭方向へ視線を向けた。
 2頭の咆吼と地面から鈍い振動は伝わるが、立ちこめた黒い粉塵で巨獣の姿を確認することはできない。
「そろそろゲームオーバーにしないか。このままじゃなにもかもなくなっちまう」
  貴幸の言葉に反応することなく井氷鹿は黙って、崩れたコンクリートの擁壁にもたれかかっていた。
  貴幸は、大きくため息を吐くと、井氷鹿のバックから朱霊珠を取り出すと渦巻く黒煙の濃淡でマダラ状になった灰色の上空を見上げた。

 そのとき南西の方向から聞き覚えのある爆音が近づいてくる。舞い上がる粉塵の中から現れたのは、迷彩色に塗装された陸自のオスプレイ、千里の搭乗した櫛田のシーガルツーだった。
  見るも無惨な状態で飛行できるのが不思議なほど機体にダメージを受けたオスプレイは岸壁の突端に開けた狭いスペースに左右にローリングしながら乱暴に着陸した。
 走ってくる千里たちに貴幸はふたつの霊珠の入った薄汚れた装備袋を差し出す。
 「これで、神の遊戯は終わりにしよう」

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千里たちのもとへついに四魂霊珠が集結
はたして大いなる謎は解けるのか
そして捕らえられた井氷鹿の運命は
ガメラよイリスよ立ち上がれ