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Chapter52 『天磐舟』
   機体のダメージでビリビリと不規則に振動するオスプレイのコクピットから貴幸たちは無言で、眼下の臨海副都心を見つめていた。そこには近代的なビル群の跡形も無く、まるで核攻撃を受けて壊滅した直後のような凄惨な風景が果てしなく広がっている。
 大井ふ頭方向は厚く黒煙と粉塵に覆われ、イリスとジャイガーの姿を視認することはできなかった。
「先輩、機体がもうボロボロなんで、とりあえず市ヶ谷へ帰投します」
 櫛田の問いかけに貴幸は黙ってうなずいた。

   同時刻、伊豆大島東方に展開している米打撃群の旗艦J・マーシャルの戦闘艦橋では司令官R・レンドーン提督が戦況の把握に苦慮していた。GⅡの大爆発で発生した電磁波と降り注ぐニュートリノの影響でCICの解析機能が極端に低下している。
 僚艦T・ベックから状況確認のため発進した哨戒ヘリSH-60からの報告待ちの状態となっていた。2隻の原子力空母とイージス駆逐艦4隻からなる強力な空母打撃群は、攻撃態勢を維持したまま、微速で浦賀水道に近づいていく。海面は穏やかで視界は概ね良好だったが、前方には空の一面を墨で塗りつぶしたような不穏で巨大な黒煙がまるで生物のように蠢きながら海上から立ち上っていた。
   
  突然、CICのハザードランプが点滅し、警告音がけたたましく艦内に響き渡る。
「後方直下巨大な未確認物体急速浮上! 直径約2マイルのほぼ円形の物体、接触の恐れ有り!」
「両弦前進全速!取り舵いっぱい!」
 艦長の絶叫が艦橋に響く。艦体がまるで恐怖におののくように小刻みに振動している。
   巨艦J・マーシャルは30ノットで極端に傾斜しながら左に大きく回頭。僚艦T・ベックも後に続く。後方に残る白い航跡が不自然に盛り上がり、海中から差渡し3km以上あるかと思われる真っ黒い巨大な岩礁が急速に浮上してくる。この世のものとは思えない異様な光景を、飛行甲板のクルーたちは全員凍り付いたように見つめている。

 岩礁全体が強烈な硫黄臭のする蒸気に包まれ、その隙間から岩礁の中央にそびえ立つ遺跡のような人工の構造物が視認できる。海面が大きく持ち上げられ発生した津波でJ・マーシャルの巨体が大きくローリングする。飛行甲板上に待機していた攻撃機、数機が鈍いスリップ音を上げながら海上へ滑落した。
 後方を警戒していた護衛駆逐艦2隻は急速に浮上する岩礁を回避することができず、末端に接触、一隻は岩礁上で横転大破、もう一隻は船体を真っ二つに引き裂かれ、沸騰し荒れ狂う海中に飲み込まれる。

   千里たちは、その状況をオスプレイの小さなディスプレイモニターで食い入るように見つめていた。
 岩礁はニュートリノのシャワーを浴びて反応しているのか、表面全体に無数の小さな光の明滅を確認できる。はたしてそれがエネルギー原なのか定かではないが、千里は八束の岩屋で体験したヒヒイロカネ(オリハルコン)の青白い光を思い出していた。

   岩礁はだんだんその全貌を現しつつあった。やがてその巨大な黒い塊は、末端から瀧のように海水をまき散らしながら、まるで重力の抵抗など無視するかのようにゆっくりと空中へ浮き上がった。岩礁に乗り上げ破壊されたイージス艦の一部がまるでスローモーション映像のように崩れた岩塊とともに海面に向かって落下していく。
 海面から1,000m近く上昇したところで岩礁は空中に静止した。
 
   J・マーシャルとT・ベックはまったく予期せぬ状況だったが、体制を立て直すとただちに攻撃機の発艦準備に取りかかった。
  飛行甲板に整然とラプター戦闘攻撃機が整列する。スチームカタパルトから白い水蒸気が立ち上り、まさに先頭が発艦しようとした瞬間、岩礁から放たれたハドロンビームがJ・マーシャルとT・ベックの飛行甲板をまるで大蛇の舌がなめるように直撃する。轟音とともにたちまち2隻の巨艦は紅蓮の炎に包まれた。

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「天磐舟…」
 モニターを凝視しながら千里がぽつりとつぶやいた。
 神代の昔、国津神の主は天磐舟を操り天空を舞い地上のすべてを掌握し、この世界の絶対的な存在として君臨していた。天津神が異界から降臨するまでは… 
  守部文書の神代文字がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
 
  満身創痍のオスプレイは市ヶ谷駐屯地のヘリポートにまるで機体を投げ捨てるように着陸した。千里が吹っ切れたように立ち上がると仲間たちに大声で叫ぶ。
「天磐舟は異界の門そのもの、決して開けさせるわけにはいかない。その鍵は私たちが持っている。さあこれからリベンジに打って出るわよ!」

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『ガメラ4-蒼龍王降臨-』主な登場人物 のおさらい

高来 千里(たからい ちさと)
物語の主人公、京南大学考古学教室准教授、古伝守部文書を解読している異端の学者。真弓、悟らとともに守部文書の謎にいどむ。

高来 貴幸(たからい きみゆき)
千里の夫、元空自のイーグルドライバー、1999年ギャオス迎撃の出撃し消息を絶つ。国津神土蜘蛛一族(地球の先住民族)のひとり朝倉美都(井氷鹿)に操られていたが、バグダッドで綾奈と出会い自分を取り戻し、綾奈と共に土蜘蛛一族と戦う決意をする。

長峰 真弓(ながみね まゆみ)
「GⅠ、Ⅲ」の主人公、鳥類学者、イリス京都襲撃の後、米国ミスカトニック大学へ留学、ギャオスの研究をしていた。 千里の親友。
帰国の途中、ニューヨークの空港で綾奈の使者と名のる少女から謎の遺物と古地図を託される。

草薙 淺黄(くさなぎ あさぎ)
「GⅠ」でガメラと意思を共有した女子高生、その後ニュージーランドでミクロネシアの民俗伝承を研究している。土蜘蛛一族の反逆者緋巫女(ヒミコ)に憑依されている。

比良坂 綾奈(ひらさか あやな)
「GⅢ」でイリスと同化した少女、同化したことにより土蜘蛛一族の出石(いずし)として覚醒する。行方不明となっていたが、貴幸とともに土蜘蛛一族の謀略を阻止しようと行動を起こす。

比良坂 悟(ひらさか さとる)
綾奈の弟、京南大学大学院で宇宙物理学を学んでいる。神岡で蒼龍王に遭遇。綾奈の指示により千里、真弓と行動を共にする。

守部 龍成(もりべ たつなり)
奈良南飛鳥村の旧家守部家の当主、代々栁星張の社を守護し、守部文書を伝承している。一時期綾奈と悟は守部家へ身を寄せていた。

朝倉 美都(あさくら みと)
もと政府の高官、13年前のイリス襲撃で消息を絶つ。土蜘蛛一族の井氷鹿(いひか)と名のり蒼龍王を覚醒させた。異界では出石の母親らしい。

米森 良成(よねもり よしなり)
もと海上保安庁巡視船の主任航海士、現在JAMSTEC調査艦はつしまの艦長、真弓のもと恋人。

日高 惣一郎(ひだか そういちろう)
京南大学宇宙物理学研究所所長、ベテルギウスの超新星爆発によって発生するニュートリノを研究している。悟の師。千里たちの良きアドバイザー。

朝倉 辰興(あさくら たつおき)
戦時中に暗躍した謎の人物、実は土蜘蛛一族の首領、天叢雲(あめのむらくも)井氷鹿の夫で出石の父、蒼龍王、劉朱鶏を操る。超新星爆発により異界の門を開き土蜘蛛復権を画策している。

齋藤 雅昭(さいとう まさあき)
元環境庁のキャリアで巨大生物対策審議会審議員、現在は防衛省政務次官、政府の中にあって千里、真弓たちを側面からバックアップする。

棚橋 巌(たなはし いわお)
タカ派の防衛大臣、齋藤や千里たちの意見を聞かず、強引に自衛隊を指揮するがことごとく作戦を失敗する。

山岸 祐三(やまぎし ゆうぞう)
穏健派の総理大臣、冷静で物静かな人物であるが、棚橋防衛大臣にイニシアチブを握られている感がある。

櫛田 亮(くしだ りょう)
貴幸のイーグルドライバー時代の後輩、現在リガート部隊のリーダーオペレーター、行動力のある熱血漢で千里たちをサポートする。