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Chapter56 『死闘!朱鶏 対 白帝』
 横浜市北区新横浜公園、西に傾いた太陽の弱い光で銀傘の影が長く伸びた日産スタジアムの音響調整室に悟の姿があった。悟のアイデアで対ジャイガー攻撃システムの構築が決定され、練馬第1師団施設部隊のオブザーバーとして派遣されたのだった。

   悟には、もしイリスの行動に少しでも綾奈の思考が反映されるとしたら、姉はジャイガーを必ずここへ誘導するだろうという確信があった。上陸地点と磐舟を結ぶ線上に近く、強力な音響設備の設置が可能であり、巨大生物を封じ込めるスペースを十分確保出来る場所はここよりほかにない。筑波の特戦研で開発された国内屈指の超指向性音響システムが陸自のチヌークによって次々と空輸され、施設部隊がフィールドを取り囲むように素速く設置していく。

 その頃、2頭の巨獣は横浜市街に壊滅的被害をおよぼしながら徐々に戦場を北西に移動、夕闇のせまる頃日産スタジアムのある新横浜公園に接近しつつあった。上空には2頭の闘いのゆくえを確かめるかのように巨大な磐舟が浮かんでいる。

   イリスの4本の触手はことごとく傷つき、右下部のテンタクランサーは食いちぎられほとんど機能しない状態になっている。身体の至る所に裂傷が見られ、とくに右腹部からは赤紫色の血液が多量に流出して、下肢全体を赤黒く染めていた。
   一方ジャイガーも、妖しく輝いていた白い体色がほとんど確認できないほど粉塵と返り血にまみれ、凝固し身体に固着した体毛が痛々しい。6枚の翼のうち主翼を除く4枚は皮膜が裂け翼の機能を失っているように萎縮していた。超塩基の作用で全身にネクローシスが進行し、四肢は細かく痙攣を繰り返している。

 かなり消耗しているとはいえ、もともと動きが緩慢なイリスよりジャイガーの運動能力が数倍凌駕している。左右のスピアとテンタクランサーの攻撃を素速くかわしながら、強酸性ニードルでたたみかけるようにイリスを攻撃する。しかし超塩基に中和されたニードルの破壊力は以前とは比べものにならず、イリスの体表を傷つけるだけで致命傷とはならない。しかしじわじわと体力を奪っていることは容易に想像できた。
 なんといってもジャイガーの武器は2本の巨大な剣牙、鋭い牙の切っ先がイリスに触れるたび皮膚が裂け、多量の血液が周辺に飛び散る。
 そして、サソリの毒針のような尾のカギ爪でイリスの筋肉を深く切り裂いていく。戦況は明らかにイリスの方が劣勢に見えた。

   しかし時間が経過するにつけ、ジャイガーの運動量が徐々に減少していく様子が見て取れた。身体の至る所に醜い浮腫が発生し、黄色い膿が吹き出す。ネクローシスは確実にジャイガーを蝕んでいる。人類の放った一矢がいま白い獣神の命を脅かしているのだ。
 2頭は日産スタジアムの南東方向から、もつれ合いながら外壁に激突すると、そのまま建造物を難なく破壊して、無人のフィールド内に侵入した。美しく整えられた天然芝が無残にめくれ上がる。粉々に砕け散ったコンクリートの塊がトラックに四散する。
「いまだ!システム起動!」
 スタジアムの照明が一斉に点灯されると、設置された超指向性音響装置から一斉に「悪魔の笛」の重低音が大音量で発信された。極限まで圧縮され破壊力を増幅した悪魔の笛の音がジャイガーに収束する。 

   ジャイガーは、不意の攻撃に苦悶の表情を浮かべ、フィールドに崩れ落ちた。四肢は痙攣し、口腔からおびただしい沫を吹き出す。イリスは正面から近づくと、両腕のスピアでとどめをさすようにジャイガーの心臓を貫いた。その瞬間ジャイガーは最後の力を振り絞って首をもたげるとイリスの首に2本の牙を深く突き立てる。両雄の絞り出すような断末魔の叫びがスタンドを振動させた。どちらのものともつかない多量の血液が瀧のように流れ落ちフィールドの天然芝を暗紫色に染める。
 2頭の巨獣はスタジアムの中央に膝から崩れると、お互い重なり合うように闘争を停止した。

 そのとき、上空から放たれた赤い閃光を放つ無数の火球が2頭を直撃した。轟音とともにおびただしい粉塵と赤褐色の毒々しい煙幕が舞い上がり視界を遮る。
 上空から舞い降りた巨大な黒い影が翼状の両腕で粉塵を切り裂く。そこには結晶状に変異していく2頭の巨獣が、お互いに絡み合ったままモニュメントのように静止していた。
 米空母を襲い、体内に吸収したネオニュートロンの作用によりプラズマ火球が新たな未知の力を持つに至ったのだ。ガメラは大きく旋回すると、静止した2頭に向かって再び降下し、ジャイガーの背後から激突する。結晶化した2頭は、すさまじい衝撃音とともに粉々に砕け散ったかと思うと、破片は上空に向かってゆっくりと舞い上がり、磐舟のワームホールに次々と吸収されていった。
 現代の最新兵器と融合したガメラの強大な力によって2頭の獣神は現世から完全に消滅し、帰るべきところへ帰って行く。

 ガメラは飛び去ろうとする結晶の中からイリスの胸部発光部位をつかみ取ると、鋭い爪で握りつぶした。中からズルっと粘液とともに人の形をした物体が流れ出る。ガメラは綾奈の生命活動を確かめるようにゆっくりとスタンドに降ろすと、最後の獣神と雌雄を決するため、上空を覆う磐舟に向かって再び飛び立った。

 悟は転がるように姉に駆け寄ると強く抱きしめた。
「千里さん、姉が…姉が帰ってきました」
悟は絞るような声でレシーバーにつぶやいた。
「やったね!」 
グライダーの中でその通信を傍受した千里と真弓は思わず眼を見合わせ思わず微笑む。
危機管理センターに歓声と拍手が起こる。総理と防衛大臣はどちらともなく堅く握手をかわした。

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ついにイリスとジャイガーは吹っ飛んでしまいました~
いよいよクライマックス、ガメラとシアンキングの最終決戦デッス
風雲急を告げる次回に乞うご期待