イメージ 1

Chapter57 『2通の書簡』
  夕闇のせまる横浜上空をグライダーは音も無く滑空する。眼前には赤茶けた水蒸気を大量に噴出する黒い巨大な影が浮かんでいる。幸い水蒸気を発するチムニーは南東部に集中しているため、パイロットの櫛田は北面に回り込みながら予め選定されていた着陸地点に向かってゆっくりと旋回し、徐々に高度を下げていった。

   直径約3km、厚さ1km、円盤状の磐舟のほぼ中央、拡散する水蒸気の隙間から黒々とした古の建造物と思われる異形の遺跡が姿を現す。そのすぐ北側に、まるで遺跡へのプロムナードを守るようにボコボコと盛り上がったドーム状の岩塊が規則正しく並んでおり、遺跡の正面には完全に朽ちた潜水艦らしき残骸が横たわっているのが見える。磐舟全体が不気味に七色の光を発し、規則正しく明滅を繰り返していた。ただ、上陸しているはずの蒼龍王の姿は確認できない。

 千里は、日高教授からのメールをヒントに自ら立案し、CMCへ上申した作戦内容について何度も頭の中で反復していた。それはある意味無謀とも思える大胆で神がかりな計画だった。
 真弓もまたミスカトニック大学図書館長から届いた一通のメールを手がかりに、千里の作戦の立案に深く関わっていた。
 その2通の書簡にはそれぞれ今回の事件に深く関わる恐るべき真相が記されていた。

日高教授書簡 高来千里京南大学文学部考古学科准教授宛

「高来先生御侍史、先生におかれましては度重なる国家的災事の収拾にご尽力され、さぞご心労のこととお察し申し上げます。

 さて、大変遅くなり恐縮ですが、この度防衛省より当研究室に分析をご依頼頂いておりました南鳥島近海で回収された金属体の科学的所見の取りまとめが一応完了いたしましたので、ご報告方々先生にご一報差し上げた次第です。なにか対策のご参考になれば幸いと存じます。

   数理的解析結果は別として単刀直入に申し上げますと、年代測定の結果、物体の外郭は少なくとも5億5千年以前、先カンブリア時代マリノア氷期以前に何者かが隕鉄を人為的に加工したものと推察され、現人類によって生成されたものとは考えられません。
 内部の勾玉状の物体の組成につきましては純度100%のまったく未知の金属であり、現在地球上に存在が確認されているいかなる物質とも整合せず、1966年にモハベ砂漠に落下した隕石の成分として微量に採取されたチルソナイトに非常に組成が似通った新たな金属元素と思われます。仮にこれを便宜上、プラトンが「クリティアス」の中で存在を記述した未知の金属オリハルコンと呼称することにします。

   オリハルコンは非常に特異な性質を有する金属元素で、最も特徴的なのは、ニュートリノがオリハルコンの原子核内を透過するとき、多量の電磁波を放出し、室温超伝導を誘発するとともに、物質固有の原子核振動を同調させる性質を有することであります。
 すなわち、高来先生の仮説のとおり、もし同一空間内に異なる時間軸、質量を有する物理的時空が複数存在すると仮定すれば、ニュートリノシャワーを起爆剤として、理論上オリハルコンが原子核振動の周期を均一化させることにより、時空境界を同一空間内に実体化させることが可能になるということです。すなわちふたつの時空を接続するワームホールが生成されるのです。

 守部文書はもちろん、古来より世界中で伝承されているユグドラシル神話や仏教の六道思想等の異世界伝承の根源についてはオリハルコンが深く関わっているのではないかと推察されます。

 しかしながら、生成されたワームホールの物理的安定を確保するためには、浮遊岩塊を構成している鉱物に含まれているオリハルコンでは純度が低く極めて不安定で、少なくとも純度90%以上で質量1kg相当の人工的に精製されたオリハルコンが必要と思われます。
 その上、質量保存の法則からそれぞれの時空内質量は常時定量を保つ必要があり、もしそのバランスが崩れると空間ひずみを連鎖的に誘発して、極端な場合ブラックホール化し、双方の時空とも消滅するリスクが極めて高いことが懸念されます。

   なお逆にこの現象を抑制するためには、原子核振動を停止させ、物質を原子レベルで分解するニュートリノとまったく相対する性質を持った素粒子の存在が不可欠です。それが可能な物質として考えられるのは1960年代に対巨大生物対策として実際に北京および我が国で使用が記録されている糸魚川博士の分子構造破壊物質ネオニュートロンであります。
 糸魚川博士はその事件の後、米軍関係の研究施設に移られたと聞き及んでおりましたが、1972年頃に精神疾患を煩いそれが原因で他界された旨非公式に発表されており、博士の没後米国で研究が継続されていたかどうかは残念ながら知る術もございません。
 数ヶ月前、太平洋上で蒼龍王掃討のため米海軍が実戦兵器としてネオニュートロン弾頭を使用したという未確認情報がありましたが、日米両国の国家機密に属する案件であり、真偽の程を確認することは残念ながら私どもでは不可能です。………以下略

 この未曾有の国難に対し、明瞭な回答をご用意できず誠に忸怩たるものがございますが、何卒、この惨事より我が国をお救い下さいますよう重ねてお願い申し上げます。 
                               日高惣一郎拝」

イメージ 2

 Ms.Mayumi Nagamine
                       Miskatonic University library director  Robert H Armitage

 早速ですが、お問い合わせの件につきまして当ライブラリーの記録・資料を再度精査いたしました結果、2,3該当すると思われる記録、書簡が新たに発見されましたので概要をご報告いたします。

   まず、お手元にある鍵状の金属ですが、それはご指摘のとおり、当大学の地質学教授であったウィルヘルム・ダイアーが1930年、南極より持ち帰った古代遺跡の遺物のひとつに相違ないと思われます。ただ当該資料は当大学より滅失しており、ダイアーの報告書に形状・材質等が記録されているのみで、その後詳細な分析が行われた記録はございません。  また、ダイアーに同行し行方不明となった助手リチャード・ダンフォースの手記について、当時学部長をしておりました父ヘンリー・アーミテイジの遺品の中から新たな事実に関するメモが発見されましたので、併せてお知らせいたします。

   ダイアー、正確には別働隊のリーダー生物学者のレイク教授が発見した古代遺跡の巨石構造物は、ベアドモア氷河の奥地、南緯82度、東経60度から南緯70度、東経115度にわたって南極を横断する高さ3万4千フィートに達する先カンブリア時代の粘板岩で構成された山脈の高度2万フィート地点にある台地上に存在すると報告書に記されています。
  大学に残る査問委員会でのダイアー教授の陳述記録では、行方不明となった別働隊を捜索するため、古代遺跡に進入したダイアーとダンフォースは、そこで何者かよって無残に惨殺されたレイクたちの遺体を発見し、その後、突然現れた未確認生物の襲撃のためダンフォースは行方不明となり、ダイアーだけが襲撃から奇跡的に逃れることができ、無事帰還をはたしたことになっております。

   しかし、アーミテイジ教授のメモに記された真相では二人とも帰還したものの、ダンフォースは精神を病み、大学の附属病院に隔離されておりましたが、査問委員会中に病院を脱走、ダイアー教授を銃殺したのち、遺物保管庫に放火して消息を絶ったと記されていました。そのおり喪失した遺物のリストの中に例の鍵状の金属棒も含まれていたようです。
 それとそのとき焼失したとされているものが、アブドゥル・アルハザドが730年に執筆したと言われる稀代の奇書「ネクロノミコン」の写本です。リチャード・ダンフォースは探検以前からこの書籍に興味を示し、再三図書館で読みふけっていたそうです。
 
 『ネクロノミコン』には“古のもの”と呼ばれる先住生物によって統治されていた太古の世界のことが記録されていました。彼らは巨大な都市を築き、寄生生物である自分たちの器兼食料として人類を創り出したのです。しかし人類は異常に進化し、古のものに対して反乱を起こしました。古のものたちは生体兵器ギャオスを使って人類を絶滅しよう画策しましたがときすでに遅く、古のものたちの大半は人類によって駆逐され、生き残ったものたちは異世界へ逃避したのです。
   ダンフォースの手記に『鳥を見た』と記されていたのはおそらく蘇生したギャオスの群れを見たのだと推察されます。そしてレイクの別働隊はおそらくギャオスの襲撃を受けたのではないかと父は生前申しておりました。

 古のものたちは再び期が熟せば、人類からこの世界を取り戻すため、異世界から帰還すると「ネクロノミコン」には書かれていたそうです。おそらく、守部文書はネクロノミコンの写本、もしくはその逆でネクロノミコンが守部文書を翻訳したものではないでしょうか。以上がお問い合わせの件に関する当方の見解です。

追伸:ミスカトニック大学南極探検隊の写真が、書庫より見つかりましたのでお送りいたします。前列中央が探検隊長ウィルヘルム・ダイアー、その右から三人目がリチャード・ダンフォースです。一見東洋人のよう見えますが、ダンフォースの父方の祖父が中国系アメリカ人なものでそのような風貌に見えるようです。
ご参考になれば幸いです…            
         ミスカトニック大学付属図書館館長 ロバート・H・アーミテイジ」


  米森は、その写真を見て思わず真弓の手から奪い取って食い入るように凝視した。
「こ‥これは朝倉辰興!」
 
   真弓はその時の背筋が凍りついたようなこわばった感触を、グライダーの狭い機内で向かい合わせに座っている千里の表情を伺いながら再び思い起こしていた。

   グライダーは、櫛田の卓越した操縦技術で乱気流と水蒸気を巧みにかわしながら、磐舟の北端にあるわずかに平坦な岩棚の上に計ったように着地した。
   後部ハッチが開くと同時に、戦闘隊員たちが周囲の気配を注意深くうかがいながらすばやく降機する。千里と真弓はかれらに囲まれるように岩棚を踏みしめた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

かなり、強引な理屈付けで無理やり真相に近づけております~
今回は大好きな「クトゥルフ神話」がモチーフです
それプラス「ウルトラQ」ですね
なんでもアイデア借用できるのが、二次創作の面白いところデッス
もちろん私は宇宙物理学とかちんぷんかんぷんで判りませんから
かなりアバウトな内容ですが、真相に少しは近づけたかも~
いよいよお話は怒濤のクライマックスへ