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Chapter59 『カール・フォン・バイストールの正体』
 悟は綾奈を抱きかかえるとそっと姉の顔をのぞき込んだ。まるで眠っているように穏やかな表情をしている。
 そのとき綾奈の全身から幾筋もの七色に輝く線状の発光体が現れ、やがてひとつの光の球に収束すると、天磐舟の方向に向かってゆっくりと上昇していく。
「出石姫…」
悟は、発光体の飛び去る光跡を眼で追いながら小さくつぶやいた。
「さ‥さとる…」
姉の弱々しい言葉にはっと我に返ると、こぼれ落ちる涙を気にもせず、再び力いっぱい抱きしめた。

 初老の男は不気味な微笑みを浮かべながら無言ゆっくりと千里たちに近づいてきた。
  逆光でシルエットしか確認できないが、女が井氷鹿であることは4人ともすぐに理解できた。櫛田が自動小銃を構えた瞬間、男の手のひらを突き破り鋭く尖った触手のようなものが飛び出したかと思うと櫛田の左肩を貫いた。
「グフッ!」
 櫛田の屈強な身体が後方へはじき飛ばされ、石畳にたたきつけられる。左肩から吹き出した多量の鮮血が瞬く間に戦闘服を真っ赤に染めた。
「櫛田君!」
 千里と真弓が駆け寄って何度も揺り起こそうとしたが、櫛田の大きな身体は細かく痙攣を繰り返し完全に意識を喪失していた。
  淺黄は3人をかばうように、男と対峙すると羽々斬の束を握りしめた。

「緋巫女、ここに至って君はまだ現世の民の側に立つのかね。羽々斬と四魂霊珠はすべて天磐門を開くための神器であることは君が一番理解しているだろう。すでに時は満ちている。君たちがいくら阻止しようとしても天磐門は開き、我々神と呼ばれた者が復活し、現世の民を収穫し駆逐する日が来たのだよ。君が我々を裏切り現世の民の王となった時代はすでに遠い古の昔の出来事だ。目覚めるのだ我が同胞。私と一体となれ!」

 辰興は鞭状に変化した左腕でいきなり後方に控えていた井氷鹿の首をなぎ払った。井氷鹿の首はいとも簡単に切断され中を舞う。すると残された首の切断面から不気味な粘液をしたたらせながら漆黒の有機体がむくむくとわき上がっていく。
 同時に、男の全身からも同じような物体が皮膚を突き破り、急激に増殖していく。そしてついには二体の人だった生物はプラナリアのように合体した。

 眼と口のような部位も認められるが明らかにそれは既製生物の概念を超越していた。
「ニャルラトホテプ!」 
真弓はミスカトニック大学の図書館で読んだネクロノミコンの写本と呼ばれる古い文献に描かれていた邪神の名を叫んだ。
「そう…でもそれはネクロノミコンでの呼び名、守部文書では禍津神の使者天叢雲…」
千里は自分の信念を確かめるかのように真弓に向かってつぶやいた。

「グルルルル~!」
 低いうなり声をあげ、禍々しい怪物はゆっくりと4人に向かって這いずってくる。
淺黄は振り回される無数の触手を羽々斬でなぎ払うが、四方からの容赦のない攻撃にじりじりと神殿の隅へ追い詰められていった。千里と真弓は櫛田の大きな身体を支えながら淺黄の後ろでどうすることもできない。

「死ね!バケモン!」
 雄叫びとともに怪物の背後からM-60の射撃音が炸裂する。怪物の肉片が四方へ飛び散る。葬祭殿正面の祭壇の上に鬼のような形相をした貴幸が仁王立ちして、櫛田のマシンガンを抱えていた。
「グロロロロ~」
  怪物は振り返ると、貴幸の脇腹を長く太い触手で一撃した。貴幸の身体が空中に舞い上がりモニュメントに激突する。
「あなた逃げて!」
千里の悲痛な叫び声は、チムニーから吹き上がる蒸気から発生する地響きと怪物の低いうなり声にかき消され貴幸まで届かない。

「時が来ました。千里さん、真弓さんこれで天磐門を閉じてください。ここは私たちがなんとかします」
淺黄は羽々斬と四魂霊珠を2人に手渡すと、その場に祈るように片膝をつくとそのまま石像のように動かなくなった。身体がかすかに発光し始めている。
  やがて淺黄の身体から立ち上った幾筋もの発光体は淺黄の頭上で収束しひとつの光の球となった。
「緋巫女…」
   発光体は淺黄の身体を離れると目映い光の矢となって、変わり果て人外の者となった怪物の身体を繰り返し貫いていく。そして同時に背後から飛来したもう一本の光の矢がまるで呼応するかのように怪物の触手を次々と引き裂いていった。

「あれは綾奈さん…いや出石の魂。二人は天叢雲を葬るつもりなのね」
かつて朝倉辰興…カール・フォン・バイストールそしてリチャード・ダンフォースであった古の怪物は全身から体液を滴らせ、醜くもだえるように身をくねらせる。
「千里、早く行けっ!」
 貴幸は絶叫すると、櫛田の装備から手に取った手榴弾を怪物の足下めがけて投げつけた。
爆発音と共に神殿の石畳の一部が怪物もろとも崩れ落ちていく。怪物は立ちこめた水蒸気のベールの中に吸い込まれるように姿を消した。
 千里と真弓は振り向くこと無く、一心に葬祭殿に向かって走っていく。貴幸は二人の背中を見つめながら櫛田に折り重なるように倒れ込んだ。

 やがて磐舟全体が再び大きく振動し始めたかと思うと、神殿の崩落した岩石を払いのけ再びおぞましい天叢雲が姿を現した。怪物が大きく咆哮すると、周辺に蠢いていたあの凶暴な怪生物が次々と群れをなして怪物の身体に纏わりつき吸収されていく。ザワザワと不気味な鳴動とともに、幾千、幾万もの怪生物が折り重なりさらに巨大な怪物を形作っていった。

   貴幸が遠ざかる意識の中で目撃したのものは、神殿に覆い被さるように影を落とす強大な禍津神蒼龍王の姿だった…

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なんかファンタジーっぽい展開になっちゃってますけど~
いよいよクライマックスって感じでしょ
次回はメインイベント、ガメラとシアンキングの一騎打ち
勝った方が人類最凶の敵となる
乞うご期待