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Capter62 『滅びのプロローグ』
  磐舟を浮遊させる電磁波の影響か、着水と同時に諏訪湖の湖面からおびただしい水煙が立ち上る。着水の衝撃により発生した高さ数メートルの津波が湖畔の民家や観光施設をことごとくのみ込んだ。ニュートリノシャワーによる岩塊自体の発光と湖底から立ち上がるオレンジ色の光が水煙に反射し、湖全体がこの世の物とは思えぬ荘厳で幻想的な光のベールに飲み込まれていく。
   その光の壁を突き抜けゆっくりと左回りに旋回しながら、満身創痍のグライダーは徐々に下降していく。磐舟から立ち上る熱気による乱気流で機体が安定せずたえず大きく振動し、その度機体がギシギシと悲鳴をあげる。
「なんとかあともうちょっとがんばってくれ!」
貴幸は心の中でなんども叫んでいた。

「こちらアメノシラトリ、タービュランスの影響で機体が安定しない。諏訪湖畔南西の諏訪湖スタジアム付近に強制着陸を試みる。けが人がいる、すぐに救急処置の手配をたのむ」
「こちら警備部隊移動指揮車。よくぞご無事で。すぐに救援を向かわせます」
湖畔の道路施設は磐舟着水による洪水に襲われ、数十カ所で寸断されていたが、住民の避難はすでに完了していたため、幸いなことに人的被害はほとんど報告されていなかった。 陸自の機甲師団は首都決戦で消耗し、ほとんど壊滅状態となっていたため、住民の避難誘導を目的に松本の第13普通科連隊が配備されていた。

   磐舟攻撃のイニシアティブはすでに防衛省から在日米軍へと移っていた。しかし米国も3隻の最新鋭原子力空母を喪失し、また岩国や横田の戦闘攻撃機群も空自と同じく先の首都決戦で損耗が激しく、攻撃体制の再構築を余儀なくされていた。
  それに中国からの無謀な核攻撃の布告に伴い、北陸地方の日本海沿岸へTHAADおよびPAC-3の警戒態勢の構築を最優先に取りかかっていた。
   しかしあまりにも時間がない。米国大統領も日本政府もホットラインで直接中国に自嘲を呼びかけたが中国の姿勢は強行で、米国および日本と紛争になるというリスクを冒してまで、自国の国力の誇示に固執しているようすだった。

「ミサイルを撃ってくるとしたら、おそらく日本海に展開する原潜からのSLBMでしょう。3日前大連から晋級原潜“饕餮(とうてつ)”が出航したという衛星からの情報をペンタゴンから入手しています」
官邸地下の危機管理センターでは、防衛省制服組の幹部と棚橋大臣が激しい議論を繰り広げていた。
「先の作戦ですでに橫須賀3隻、佐世保2隻のDDHを喪失しております。現在稼働できるイージス艦は舞鶴の“ゆきなみ”と“はるか”そして第2潜水戦隊の潜水艦が3隻のみとなっております」
「それで日本海のEEZすべてを警戒することなどできんだろう。米軍に要請してイージス艦を回してもらう以外方法はない!」
「しかし日本近海に展開できる第7艦隊のイージス駆逐艦はいまのところ佐世保に停泊中の“タイコンデロガ”1隻のみと聞いております」
「それじゃ話にならん!もう時間がない。韓国とフィリピンにいる駐留米軍のイージス艦を出動させるよう大統領に直談判するしかない!」
「すでに東シナ海を哨戒中だった“ズムウォルト”が相模湾に向かって急行しているとのことです。EEZ到着は08:00」
「間に合うことを祈るばかりか…」

「あの学者の姐さんたちはどうなっとるんだ!成功したのかしなかったのかまだ報告はないのか!」
「少なくとも目標は諏訪湖に落下し、地殻変動が余談を許さない状態です。アメノシラトリが離脱したことは偵察隊が確認しておりますが、消息事態はいまのところ不明、地元からの報告を待たないとなんとも言えません」
「断層の亀裂は大きくなる一方じゃないか!きっと失敗したに違いない。彼女たちのことはどうでもいいから、ミサイルが飛んでくる前に目標を排除できるよう早急に作戦を立案したまえ」
「とは言われましても先に申し上げましたとおり…」
罵声とも恫喝とも思える棚橋大臣のヒステリックな発言に、統合幕僚長と作戦本部長はただ天井を見上げ、硬直したまましばらく動こうとはしなかった。
「棚橋くん、もう少し冷静に対処できんのかね」
さすがに温厚な山岸総理もいらだちを押さえきれず棚橋大臣をたしなめる。
「冷静にと言われましても…」
返す言葉がなく、今度は棚橋大臣自らが統合幕僚長たちと同じく硬直してしまった。

   諏訪湖周辺では、震度2から3程度の中規模な地震が絶えず頻発していた。巨大地震発生の兆候はそれだけにとどまらず、ますます危険度を増しているように思える。湖底の光は磐舟を包み、磐舟自体が発する鳴動もますます激しくなり端縁部の崩落が止まらない。その上、磐舟の直上に巨大な渦を巻く雷雲が形成され、短時間で急激に巨大化していくのが肉眼でもはっきりと認識できる。それは過去に何度か目撃されているワームホールに酷似しているが、その規模はかつてなかったほど巨大で無制限に成長を続け、直径はすでに諏訪湖を上回るほどになっている。
渦巻きの中心では強力な雷光がたえず明滅し、ときおり鋭い稲妻が磐舟を直撃し、崩壊を助長している。

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磐舟から発せられるニュートリノの光も上空の渦巻きにまるでエネルギーを供給しているかのように飲み込まれていく。
諏訪湖の湖面は荒れ狂ったように激しく沸騰し、おびただしい水蒸気が磐舟を包んで全貌を目視することができない。幸い電磁波だけは弱まっているため、数機の陸自偵察ヘリが遠巻きに磐舟周辺を旋回し、できるかぎりの情報収集を試みている。

「CIC聞こえますか?千里です。手短に状況を報告します」
「よかった先生無事だったのか!長峰さんは?」
感情を表に表さない山岸総理もこの瞬間表情をいくぶんゆるめ微笑んだように見えた。
「大丈夫です。数人の犠牲者と負傷者は出たのは残念ですが目的は概ね達成できました」
米森は官僚たちの背後で、気づかれないように小さくガッツポーズをした。

「羽々斬は喪失しましたが、磐舟をコントロールする心臓部と天磐門(あめのいわと)と呼ばれるワームホールを発生させる装置を破壊することができました。これで少なくとも異世界との恒久的な結合は阻止できたと思います。しかし天磐門の一時的な発生だけは阻止することができません。バランスが崩れたまま巨大ワームホールが発生すると逆にこちらから異世界に向かって物質とエネルギーが逆流する可能性があります。限界点到達までおそらくあと数時間かと…天磐門を閉じる方法は私には判りません。詳しくは日高教授の指示にしたがってください」

「それじゃかえって状況を悪くしただけじゃないのか!」
棚橋大臣がまた吠える。しかし振り返った総理の視線に射られて萎縮してしまった。
政府のヘリで招聘され、日高教授はすでに総理官邸に到着していた。

「高来さんたちの活躍で、いまワームホールは非常に不安定な状態だと思われます。巨大なワームホールを生成し安定化するだけの誘発物質が決定的に不足している。高来さんたちが破壊したからね。不安定なまま成長すると数時間のうちに自壊してしまうでしょう。ただ高来さんのおっしゃるとおり、こちらの世界と向こうの世界のエネルギーバランスが崩れたままワームホールが成長すると、互いの物質とエネルギーの均衡を図るため、影響範囲の物質のほとんどを向こうへ吸い取られてしまう。こちらの方の制御物質オリハルコンが無くなってしまったからね。質量は小さくてもオリハルコンに値する現存する物質のエネルギー量ははかりしれない。いったいどのくらい向こうへ流れ込めば均衡がとれるのか…水が高いところから低いところへ流れるのと同じ理屈ですよ。両方の器の水の量が同じになるまで流れ続ける。同量となったときはたして日本が存在しているのかどうか…」
「ミニマムサイズのブラックホールが諏訪湖上空の大気圏内に発生すると思って間違いない。相当やっかいな問題だが、防ぐにはひとつだけ方法がある。限界点に達する直前に、こちらから膨大なエネルギーを送り込んでやる。するとこちらの世界とあちらの世界のエネルギーの結合が分断され、ワームホールは即座に消滅すると思われます。乱暴な言い方をすると、洗面台の排水口に蓋をするのと同じ原理ですな」

「その蓋はいったいどこにあるというのかね先生!」
懲りない防衛大臣がまた口をはさむ。
「先ほどのやりとりを聞いていると、こちらから用意しなくてももうすぐ隣の国から飛んでくるそうじゃないかね。日本の消滅を防ぐんだから究極の核兵器の平和利用じゃな」
日高教授は皮肉をこめてつぶやいたつもりだったが、周りの緊迫した雰囲気を察してバツ悪そうに小さく咳き込んだ。
「しかしそれほど簡単な問題ではないよ。限界点に達する直前に打ち込まなければならないのと、その核出力は少なくとも50kt以上は必要だと思われる」
「中国のSLBMの威力はどれくらいなのかね」
棚橋大臣が唐突に防衛省の官僚に質問した。
「巨波2型で50から1000ktと推定されています」
「それじゃうまくいくと怪獣どもともども消滅させることができるかもしれんじゃないか」
なんとも直情的で安直な大臣の言動に官僚たちは呆れて閉口するしかなかった。
「成功すればおそらく核エネルギーと放射能はワームホールに100%吸収されて、こちらの世界に危害がおよぶことはないと思われるが、要はそのタイミングだよ。限界点直前でないと意味がない。いったん事象が始まってしまうと我々の力ではどうすることもできない。いま比良坂君とうちのスタッフが、影響範囲と限界点の予想時刻を大学のスパコンで算出している。ただそれが判明してもその時間にピンポイントで示された地点に着弾させ、確実に爆発させる能力が某国にあるかどうかは私の知るところではないがね」
この逼迫した状況の中でも日高教授はいたって冷静だった。

「外務大臣、もう一度中南海へホットラインを開いてくれ。私が直接主席に話す。いずれにせよ国土と国民を救うことのできる唯一の手立てだ。先生、正確な時間の算出をお願いします」
山岸総理は外務官僚と別室に向かうと、覚悟を決めたような表情で、用意されたホットラインの受話器を手にとった。

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ことここに至ってまだ物語をどう終焉に持って行ったらいいのか模索中です~
おぼろげながらおおかたのあらすじは脳内に浮かんではいるのですが…
まあ、メインはやっぱガメラと蒼龍王の最終決戦であることは間違いないですけど~
いきあたりばったりですから、先のChapterとつじつまが合わなくなったところは
思いつくまま随時さかのぼって修正しています~
でもやっぱ整合性が悪いところはありますが、気にせず忘れてくださいませ~
でもなんやかんやでエンディングが近づいている予感はしますでしょ
ほんじゃもうあともう一踏ん張りお付き合いくださいませ~