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Chapter63 『邪神復活』
 東の空がうっすらと白みはじめ、長い夜が終わろうとしている。
千里、真弓、貴幸の3人は、湖西の高台にある諏訪湖SEに設置された前線本部の救護用仮設テントで手当を受けていた。ここからは諏訪湖が一望できる。しかしいま眼前に見えるものは、かつてののどかな風情からは想像もできない凄惨な地獄絵図のような風景だった。
   重傷を負った櫛田は甲府市の医療センターへ救急ヘリで転送された。テントの内外では自衛隊やレスキュー隊の隊員たちがあわただしく行き交っている。ただこれから起ころうとしている戦慄の事実は千里たち以外知るよしもない。誰もがみなこの悪夢から一刻も早く解放されることを願っていた。

   上空に渦巻く巨大な黒雲からは絶えず雷鳴と閃光が発生し、その中心部には球状の漆黒の物体がいまにも空全体を飲み込むような勢いで刻々と成長していた。
   大地は数分おきに地鳴りとともに地震活動を繰り返し、そのたびテントに設置してある医療機器がビリビリと振動する。
「もう私たちにできることはなにもないわね」
千里がぽつりとつぶやく。
「浅黄さんや櫛田くん、特殊部隊の人たち…たくさんの大きな犠牲をはらったのになにひとつ好転していない。結局私たちは無駄な努力を重ねてただけなんだろうか…結果は判っていたのに…」
千里は湖の中央に浮かぶ巨大な磐舟を観ながら大きくため息をついた。
珍しく弱気になった千里の肩に、貴幸が後ろからかばうように無言で手をかける。
「そんなことは絶対にないし、最後まで悪あがきしようといったのは千里でしょ」
真弓もそう言いながらほんの少し微笑んだ。

「まだあきらめてはいけません。あなたたちの勇気ある行動は決して無駄ではありません。あとは私にまかせてください」
突然、心の中に直接訴えかけるように聞こえてきた声に3人はあたりを見回した。
「今の声は…綾奈さん…いや出石姫」
3人は磐舟から西の空へ向かって飛び立つ一筋の小さな光点を見たような気がした。

 奈良、葛城山中行者谷、劉朱鶏出現のあと残存する幼体が万が一にも再び蘇生することがないように、空自F-2のナパーム攻撃による徹底的な殲滅作戦が実施された。       
 葛城山東斜面1km四方にわたって爆撃の痛々しい傷跡が残り、以前の緑深い原生林は完全に滅失し、無残な岩肌を露出している。
現地には、監視のため信太山の第五普通科中隊が派遣されていたが、第5師団のほとんどの所属部隊は首都防衛戦に招集され、従事する隊員はごくわずかだった。
 
明け方、奈良盆地に暁の光が差しはじめた頃、なんの予兆もなく突然、山体が大きく鳴動し山腹から幾筋ものおびただしい土煙が噴き上がった。爆撃のためもろくなった行者谷の岩肌が次々と音をたてて崩落していく。そして、崩れた山腹からストロボを連射するように青白い強力な閃光が明滅したかと思うと、鋭く尖った四本の触手が山腹を突き破り、朝焼けと同色の朱く巨大な本体が出現した。
「こちら葛城山監視部隊、06:30行者谷八束の岩屋付近より再び劉朱鶏と同種と思われる巨大生物が出現。繰り返します葛城山行者谷より再び巨大生物出現!」
            
   劉朱鶏はゆっくりと頭を擡げると、長大な触手を翼状に変形させ大きく拡げる、朱色の巨体は超新星の光と朝焼けに照らされ妖しく輝いている。先に出現した個体よりさらに大きく身長はゆうに80mを超えているように思われた。
   全身の発光体の光が増すと、巨体はゆっくりと地上から離れた。監視部隊の隊員たちは皮膜翼により発生した強力な衝撃波に巻き込まれ、数名が数十メートル近く吹き飛ばされた。岩陰に待避し難を逃れた隊員たちは、東方から飛来した小さな光点が劉朱鶏の胸の発光体に吸収されるのを目撃した。それは人の形をしていたようにも見えた。

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   日本海、佐渡島北方200海里EEZ付近、中国の原潜“饕餮”は、海自の対潜哨戒機の索敵を避けるため深深度で身を潜め、すでにSLBMの発射準備を完了していた。予定された発射時間まで後約1時間、艦長陳元龍提督は人民解放軍生粋の軍人で表情一つ変えることなく、冷静に本国からの指令を待っていた。自分の命令ひとつで日本の一地方都市が消滅することなどまったく気にも止めてない様子だった。

   乗組員がSLBM発射の最終チェックに入ったそのとき、艦上方から急速に迫ってくる正体不明の巨大な物体をソナーが捕らえた。
衝突を避るため、饕餮は機関全開にして回避行動をとろうとするが間に合わない。                                  
 巨大な物体は艦橋後方、ミサイルのサイロ上に激突しそのまま覆い被さる。原潜は大きな衝撃を受け一瞬にして航行不能に陥る。そして接触した物体の重量で急速に沈降していく。
 劉朱鶏は触手先端のテンタクランサーで船体を貫き、原子炉およびミサイル格納庫の隔壁を一瞬のうちに破壊した。そして触手の先端から核エネルギーを吸収していく。
 饕餮の原子炉は停止、船体の亀裂から大量の海水が内部へ流れ込み、乗組員全員が脱出することもできず、阿鼻叫喚の生き地獄と化す。数分後船体は水圧に耐えきれず圧壊し、その残骸は深い海溝の底へと消えていった。

   暗黒の海溝の闇の中から禍々しい生物が再び浮上してくる。核エネルギーを吸収した劉朱鶏の全身がまるで発光器を持った深海生物のように妖しい光に包まれていた。

   その頃、山岸総理は中国首脳とホットラインでぎりぎりの交渉を行っていたが、中国首脳の姿勢は強行で総理の説得を受け入れる様子はなかった。総理はそれでもなお、語気を荒げながら核攻撃を中止するよう重ねて訴えていた。ところがなにか問題が起こったのか突然、中国側から一方的に会談が打ち切られた。総理が落胆のあまり執務室のソファに崩れるように深く座り込んだ矢先、CICから緊急の報告が入る。

「日本海哨戒中の海自P3-Cより報告、佐渡島北方200海里の海域で中国原潜が、劉朱鶏と思われる巨大生物の攻撃を受け沈没したもよう。海上に多数の漂流物を確認、生存者は不明、なお同海域に放射能汚染の兆候なし。劉朱鶏は海中から浮上すると南方に向かって当海域を離脱しました。繰り返します…」
   総理はなんとも複雑な表情を浮かべながら、葺石官房長官とともに危機管理センターのCICへ帰ってきた。
「棚橋大臣、状況はどうなっているんだ」
「それがまったく予想だにしない事態が勃発しまして、いま米軍の偵察衛星と現地の海自哨戒機からの情報を収集分析している最中です」
   その時、悟がCICに息を切らせながら走り込んできた。
「博士、ワームホールの限界点到達時間が算出できました。いまから46分後、午前8時18分。影響範囲は半径160kmと推定されます」
「半径160kmというと中部関東一円、首都圏を含めてすべてワームホールに吸い込まれてしまうということか!」
   棚橋大臣はヘタヘタとフロアに座り込んだ。

   そのとき再びCICにエマージェンシーアラームが鳴り響く。
「諏訪湖南部上川大橋東岸に蒼龍王上陸!ガメラ再び上空から攻撃を開始したもよう」
「空自偵察機より報告、北方より音速で南下する飛翔体を確認、中国原潜を撃沈した劉朱鶏と思われ急速に諏訪湖に接近中!」
千里たちの眼前で、現世の存亡をかけた戦神たちの最終闘争の火ぶたがきって落とされようとしていた。

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なんとか強引にクライマックスまでお話が進みましたよ~
あとはもう、ガメラシアンキング
そしてイリスの三つ巴の闘いの顛末を目撃するだけデッス
いよいよクライマックスみんなでガメラを応援しよう