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アマプラでこんな邦画観ました。1999年に公開された手塚眞監督のSF文芸映画「白痴」デッス

過去か未来かも分からない、想像の中の日本。そこには半ば日常と化した戦争が続いており、空襲によって町も人々も殺伐とし、社会全体が荒廃しきっていた。伊沢は、映画製作の夢を抱きながら今は国策TV放送局のADとして働いている。場末の路地にある彼の下宿の隣家には、木枯と白痴の妻サヨが住んでいた。伊沢は、現場で傍若無人な行動を繰り返すカリスマ的アイドル銀河に理不尽なパワハラを受け、身も心も打ちのめされていた……

SF文芸映画なんてカテゴリーがあるのかないのか知りませんが、これは昭和の文豪坂口安吾の短編小説を大胆に脚色してSF仕立てにリブートした作品デッス
文学作品のSF化というと、2012年にCGアニメで公開された夢野久作の「ドグラ・マグラ」や、同じく2019年に長編アニメ化された太宰治の「人間失格」がありましたが、どちらも原作とはまったくテイストの違う異質な作品でしたですゥ…
この「白痴」がそれらの先駆けとなったのかもしれませんね。

監督の手塚眞さんはSFマンガの巨匠故手塚治虫氏の長男で、この作品は手塚プロが製作した初めての長編実写映画だそうです。上映時間146分、なんとも不思議な世界観を持った作品で、寺山修司の映像作品を観てた時のような感覚を思い出しました。
原田芳雄さんとか、寺山作品の常連さんが出演してるし~www
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太平洋戦争の戦時下を連想させるような、空襲で焼け野が原になった街の情景の遠望に、まるでバベルの塔のような国策TV放送局の建物がそびえ立っています。
放送局の中はまるで外界とは隔絶したような近代的な設備が揃っていますが、軍部に統制されているのか、非常に封建的な縦社会で、人気アイドルの銀河は傍若無人でめっちゃ胸糞悪い女です。
主人公伊沢(浅野忠信さん)はそこでこき使われている脚本家志望のADで、銀河に目を付けられ事あるごとに理不尽なパワハラで迫害され、無気力な生活を送っています。伊沢の下宿している街はまだ空襲から免れてはいますが、住んでる住民たちは心の歪んだ異常な人物ばかりです。

そんなある日、隣に住んでいる奇人木枯の女房で白痴だと噂されている女性サヨが、伊沢の部屋の押し入れに住みつき奇妙な同棲生活が始まります。アイドルからの辛辣ないじめにあいながら黙々と耐えている伊沢でしたが、ついに伊沢の住む街にも空襲が始り一面炎に包まれます。伊沢とサヨは空襲から逃れるため必死に逃亡を図るのですが…

当然私は坂口安吾の原作は読んだことがないので、どれだけ脚色されているのかは判りませんが、SF仕立ての奇妙な世界観にはめっちゃ好奇心を覚えました。
一面焼け野原で、無惨な焼死体が折り重なっているような場所で、極彩色のベールを身にまとった華やかなモデルたちを平然と撮影している写真家とか、食料にも困ってボロボロになってる群衆がTVの前に集まってCGを多用した現代的なバラエティ番組を観てたりとか…ほんと理解不能なカオスな世界ですゥ~下宿の庭にブタやニワトリ、巨大なアヒルとか飼ってるし~www

とは言え社会全体を包む空気感は重たく澱み、すべてが荒廃した退廃的な世界です。主人公を含めてすべての登場人物が救いようのない倦怠感に包まれています。凶暴で理不尽なアイドル銀河も矛盾を抱えて心の中で葛藤しもがいているようです。なにひとつ解決しませんし、納得できるようなことはひとつも見つけられません。ドラマとして観るとただただ精神的に疲れる作品ですゥ~

ヴィジュアル的には、クライマックスの空襲シーンの映像は見事です。実際に撮影用に作った実物大の街のセットを多量の爆薬で大胆にぶっ飛ばし、炎上させる迫力は半端ないです。ミニチュアやCGでは表現不可能な真のリアリティですね。
当時の特撮技術を駆使した、炎に包まれた川の中を主人公とヒロインが逃避するシーンはめっちゃシュール、空襲にやってくるB29のような6連発爆撃機の編隊も、まるで特撮戦記映画を観てるようで面白いです~

それに主人公の青年伊沢を演じた若き日の浅野忠信さんが、めっちゃミステリアスでイケメンなのに惚れ惚れしましたです~草刈正雄さん演じるサヨの主人木枯も不思議なオーラを放っていて、妖しい雰囲気が絶品でした。他の出演者もひとりひとりが個性的に描かれていて存在感があり、めっちゃヘヴィで疲れる映画ではありますが最後まで目が離せませんでした。
内容が理解できたかというとさっぱりですけど~

このくらいのクオリティがあると文芸作品としてふさわしいのかもしれませんね。
とくに映像美がすばらしかったですゥ~寺山修司の「田園に死す」や鈴木清純監督の「陽炎座」…そして松本俊夫監督の「ドグラ・マグラ」のように、なにがなにやらストーリーはよく理解できないんですけど、不思議な求心力のある映像作品でしたですゥ~ダハハ